「バオバブ」と聞いて、あなたはどんな樹を思い浮かべるでしょうか。
太く膨らんだ幹に、まばらに広がる枝——星の王子さまにも登場するあの独特の樹形は、世界中で愛されてきた風景です。しかし実は、バオバブと呼ばれる樹木には8つの種類が存在し、それぞれ原産地も、樹形も、花の色も、栽培の難しさも違うことをご存知でしょうか。
アフリカ大陸に1種、マダガスカルに6種、そして遠く離れたオーストラリアに1種。地球上の3つの地域に分かれて生きるバオバブたちは、それぞれが独自の進化を遂げてきました。
この記事では、バオバブ属(Adansonia属)全8種を、原産地ごとに整理して徹底解説します。学術的な分類情報だけでなく、実際に種子から育てる「栽培家の視点」を盛り込みました。
- バオバブ全8種の特徴と見分け方
- 原産地・樹高・花色・開花期の比較表
- 初心者から上級コレクターまで、目的別のおすすめ種
- 種子から育てるための準備
読み終わるころには、あなたが次に育てたいバオバブが、きっと見つかるはずです。
バオバブ(Adansonia属)とは
アフリカ・マダガスカル・オーストラリアという、海を越えて隔たった3つの大陸に分布する樹木——それがバオバブ(Adansonia属)です。太く膨らんだ幹に水を蓄え、千年を超える樹齢を持つ個体も存在することから、現地では「生命の樹」と呼ばれてきました。植物分類学的にはアオイ科(旧パンヤ科)バオバブ属に属し、現在認められている種は全部で8種。本記事では、その8種すべてを原産地別に整理し、栽培家の視点で詳しく解説していきます。
「生命の樹」と呼ばれる理由
乾季には葉を落とし、雨季に一気に芽吹くバオバブは、乾燥地帯において人間・動物・昆虫の命を支える存在です。果実、樹皮、葉、すべてが食料や生活資材として活用され、その存在は地域の文化と切り離せません。果実の果肉はビタミンCを豊富に含み、近年は「スーパーフード」として欧米でも注目されています。
バオバブ属の分類学的整理(全8種)
長らく9種とされてきましたが、2012年の分類学的再検討により A. kilima が A. digitata に統合されるなどの整理が進み、現在は8種が標準的な分類となっています。各種は遺伝的にも地理的にも明確に区別され、染色体数や花の構造で見分けることができます。
原産地別の地理的分布マップ
8種のうち6種がマダガスカル固有種、1種がアフリカ大陸全域、1種がオーストラリア北西部に分布します。マダガスカル島という地理的隔離が独自の進化を生み、わずか58万平方キロメートルの島に世界の75%のバオバブ多様性が集中しているのです。
バオバブ8種を一覧で比較
まず全体像を掴むために、8種を1枚の表にまとめました。詳細な解説は次章以降で1種ずつ展開しますが、本表を栽培種選定の早見表として活用してください。
| 種名 | 学名 | 原産地 | 樹高(m) | 花色 | 開花期 | 樹形 | IUCN | 栽培難度 | 入手難度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| アフリカバオバブ | Adansonia digitata L. | サブサハラアフリカ | 5〜25 | 白 | 雨季初期 | 太い直幹 | LC | ★★ | ★ |
| グランディディエリ | A. grandidieri Baill. | マダガスカル西部 | 25〜30 | 白 | 5〜8月 | 円柱状直幹 | EN | ★★★ | ★★★★ |
| フニー | A. rubrostipa Jum. & H.Perrier | マダガスカル南西 | 4〜8 | 黄〜赤橙 | 11〜3月 | ボトル型 | LC | ★ | ★★ |
| マダガスカリエンシス | A. madagascariensis Baill. | マダガスカル北西 | 5〜20 | 赤 | 10〜3月 | 樽型 | LC | ★★ | ★★★ |
| ペリエリ | A. perrieri Capuron | マダガスカル北部 | 25〜30 | 黄 | 不明 | 直立円柱 | CR | ★★★ | ★★★★★ |
| スアレゼンシス | A. suarezensis H.Perrier | マダガスカル北端 | 20〜25 | 白 | 乾季 | 平らな樹冠 | EN | ★★★ | ★★★★★ |
| ザ | A. za Baill. | マダガスカル西〜南 | 10〜30 | 黄 | 11〜2月 | 直幹型 | LC | ★ | ★★ |
| ボアブ | A. gregorii F.Muell. | 豪州北西部 | 5〜15 | 白 | 11〜3月 | コブ型 | LC | ★★★ | ★★★★ |
IUCN: LC=軽度懸念、EN=絶滅危惧IB類、CR=絶滅危惧IA類(2024年版)
アフリカ大陸のバオバブ(1種)
アフリカ大陸に自生するバオバブは、意外にも1種類のみ。サブサハラアフリカ全域に広く分布する、世界で最も有名なバオバブです。
Adansonia digitata|アフリカバオバブ
- 学名:Adansonia digitata L.
- 別名:アフリカバオバブ、デジタータ、Monkey bread tree
- 原産地:サブサハラアフリカ全域(セネガル〜スーダン〜南アフリカ)
- 樹高:5〜25m
- 花色:白
- 開花期:雨季初期(地域により5〜11月)
8種のうち世界で最も有名なバオバブで、「バオバブ」と聞いて多くの人が思い浮かべるのがこの種です。アフリカ大陸の広範囲に分布し、樹齢2000年を超える巨木が報告されることもあります。果実は「モンキーブレッド」と呼ばれ、現地ではジュースや健康食品の原料として利用されてきました。
栽培難度:★★(普通)
種子は流通量が多く比較的入手しやすく、発芽率も種子処理を行えば良好です。耐寒性はやや低めですが、本州南部以南では工夫次第で屋外越冬も可能です。塊根が太く育つため、コーデックスとしての観賞価値も高い種です。
マダガスカルのバオバブ(6種)
バオバブ8種のうち6種がマダガスカルにのみ自生します。島という地理的隔離が独自の進化を生み、樹形・花色・開花時期がそれぞれ異なる6種が生まれました。「並木道」で観光名所になっているのもマダガスカルです。
Adansonia grandidieri|グランディディエリ
- 学名:Adansonia grandidieri Baill.
- 原産地:マダガスカル南西部(モロンダバ周辺)
- 樹高:25〜30m
- 花色:白/開花期:5〜8月(夜咲き)
- 樹形:円柱状にまっすぐ伸びる、巨大な柱のような独特の樹形
マダガスカル西部の「バオバブ並木道(Allée des Baobabs)」を構成する主役で、世界中の旅行者を魅了する種です。IUCNレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されており、生息地の縮小と再生不良が深刻な問題となっています。
栽培難度:★★★(やや難しい)
種子はマダガスカル現地での採取量が限られ、流通も不安定。発芽させても成長は緩やかで、特徴的な円柱状樹形が現れるには長い年月を要します。コレクター人気は8種中トップクラスです。
Adansonia rubrostipa(fony)|フニーバオバブ
- 学名:Adansonia rubrostipa Jum. & H.Perrier(旧 A. fony)
- 原産地:マダガスカル南西部の乾燥地帯
- 樹高:4〜8m(8種中最小)
- 花色:黄〜赤橙/開花期:11〜3月
- 樹形:ボトル型・徳利型のずんぐりとした幹
栽培家から最も人気が高い種の1つ。小柄でボトル型に膨らむ幹は、まるで生きた工芸品のような造形美を持ちます。鉢栽培でも特徴的な樹形が早い段階で現れるため、コーデックス愛好家から絶大な支持を集めています。
栽培難度:★(易しい)
種子の発芽率は処理を行えば良好で、成長も比較的早め。乾燥にも強く、室内栽培でも形を維持しやすい入門種です。「最初のバオバブ」として最有力候補となります。
Adansonia madagascariensis|マダガスカリエンシス
- 学名:Adansonia madagascariensis Baill.
- 原産地:マダガスカル北西部
- 樹高:5〜20m
- 花色:赤/開花期:10〜3月
- 樹形:樽型〜短い円柱型
赤い花を咲かせる種として知られ、開花期には濃い赤色の花が樹冠を彩ります。マダガスカル北西部の乾燥落葉林に自生し、雨季と乾季のはっきりした気候を好みます。
栽培難度:★★(普通)
種子の流通は比較的安定しており、発芽もそれほど難しくありません。成長すると幹に独特の樽型のフォルムが現れます。赤花を楽しむには相応の年数が必要です。
Adansonia perrieri|ペリエリ
- 学名:Adansonia perrieri Capuron
- 原産地:マダガスカル北部(極めて狭い範囲)
- 樹高:25〜30m/花色:黄
- 樹形:直立性の高い円柱状
8種中もっとも個体数が少ない種で、IUCNレッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に分類されています。野生個体は推定数百本以下とされ、研究目的以外での種子流通はほぼ存在しません。
栽培難度:★★★(難しい/情報少)
個人栽培の事例自体がほぼ報告されておらず、希少コレクター向け。種子が流通したら極めて貴重です。
Adansonia suarezensis|スアレゼンシス
- 学名:Adansonia suarezensis H.Perrier
- 原産地:マダガスカル北端(アンツィラナナ周辺)
- 樹高:20〜25m/花色:白/開花期:乾季
- 樹形:樹冠が平らに広がる独特のシルエット
地名「Suarez(現アンツィラナナ)」に由来する種で、北端の限定された地域にのみ自生します。樹冠が水平に広く張り出す独特のシルエットが特徴で、IUCNレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。
栽培難度:★★★(難しい)
種子の流通量は非常に少なく、栽培情報も限定的。コレクター向けの希少種です。
Adansonia za|ザ
- 学名:Adansonia za Baill.
- 原産地:マダガスカル西部〜南西部(最も広範囲)
- 樹高:10〜30m/花色:黄/開花期:11〜2月
- 樹形:直幹型〜やや膨らむ円柱型
マダガスカル6種のなかで最も広く分布し、最も入手しやすい種です。種子の流通量も比較的安定しており、価格もコレクター種に比べれば手の届きやすい範囲にあります。
栽培難度:★(易しい)
発芽率はバオバブ属のなかでも安定して高く、成長も比較的早め。「マダガスカルのバオバブを育ててみたい」と思った時の最初の選択肢として最適です。
オーストラリアのバオバブ(1種)
アフリカから遠く離れたオーストラリア北西部にも、1種のバオバブが分布しています。アボリジニの人々から「ボアブ」と呼ばれ親しまれてきた、地球の反対側の生命の樹です。
Adansonia gregorii|ボアブ
- 学名:Adansonia gregorii F.Muell.(旧 A. gibbosa)
- 原産地:オーストラリア北西部(キンバリー地域)
- 樹高:5〜15m/花色:白〜クリーム/開花期:雨季(11〜3月)
- 樹形:短く太い幹がコブ状に膨らむ独特のフォルム
地球で唯一、アフリカ・マダガスカル以外に分布するバオバブです。なぜオーストラリアに1種だけ存在するのかは、植物地理学的にも興味深い謎で、太古に種子が海を渡った説と、ゴンドワナ大陸時代からの遺存種説が議論されています。アボリジニの人々の伝統文化と深く結びつき、果実・樹皮・根は食料や薬として利用されてきました。
栽培難度:★★★(やや難しい)
種子の国際流通には検疫上の制約があり、入手は容易ではありません。コブ状の樹形が早期から現れるため、栽培できればコレクションの目玉となる種です。
バオバブを実生で育てるなら、どの種類から?
「とりあえずバオバブを育ててみたい」という方から「コレクションを完成させたい」という上級者まで、目的別の推奨種を整理しました。栽培難度・入手難度・成長スピードの3軸で選ぶのがおすすめです。
入門向け:Adansonia za / A. rubrostipa(fony)
種子の流通が安定しており、発芽率も処理を行えば80%前後を期待できます。フニーは特にボトル型の樹形が早期に現れるため、達成感を味わいやすい種です。
中級者向け:Adansonia digitata / A. madagascariensis
種子は入手しやすいですが、特徴的な樹形が出るまで時間がかかります。じっくり育てたい方向け。マダガスカリエンシスは赤い花を見るのが楽しみの一つです。
上級者・コレクター向け:A. grandidieri / A. gregorii
種子流通量が少なく、価格も高めですが、観賞価値・希少価値ともに最上位。希少種をコレクションしたい方への目標です。
入手困難種:A. perrieri / A. suarezensis
野生個体数が極めて少なく、商業流通は極めて稀。コレクションのゴール地点とも言える存在です。
バオバブを種から育てる準備
バオバブの種子は外殻が非常に硬く、そのまま播いても発芽率は低くなります。温水処理・削皮処理・ジベレリン処理といった前処理を施すことで、発芽率を大きく改善できます。
おおまかな手順:
- 温水処理:80℃前後のお湯に種子を入れ、自然に冷めるまで一晩浸水
- 削皮処理(必要に応じて):種皮の一部を爪切りやヤスリで削り、吸水を促進
- 播種:清潔な多肉植物用土に1cm程度の深さで播く
- 温度管理:発芽までは25〜30℃をキープ
- 発芽後:明るく風通しの良い場所で管理。乾燥気味に水やり
詳しい手順は硬い種の播種の方法を徹底解説で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. バオバブは日本で育てられますか?
A. 鉢植えでの室内・温室管理であれば、日本全国で栽培可能です。屋外越冬は本州南部以南・温暖な地域で一部の種に限り可能ですが、多くの種は冬季10℃以上のキープが望ましいです。
Q. バオバブの寿命はどれくらいですか?
A. 自生地では2,000年を超える個体も報告されていますが、日本の鉢栽培では数十年〜100年程度が現実的な目安です。
Q. パキポディウムやアデニウムとはどう違うのですか?
A. すべて塊根植物として分類されますが、バオバブはアオイ科、パキポディウムはキョウチクトウ科、アデニウムも同じくキョウチクトウ科で、分類学的にはまったく異なるグループです。樹形や花の形でも見分けがつきます。
まとめ|あなたに合うバオバブはどれ?
バオバブ8種それぞれの個性を整理してきました。最後に、目的別の「あなたへの一押し」をご紹介します。
- 🌱 はじめてバオバブを育てる方へ ➡ Adansonia za(ザ)または A. rubrostipa(フニー)
- 🌿 コーデックス好きの方へ ➡ A. rubrostipa(フニー)
- 🌳 コレクションを完成させたい方へ ➡ A. grandidieri、A. madagascariensis、A. gregorii
- 📚 学術・教育目的の方へ ➡ 全8種を体系的に
バオバブは、芽を出してから幹が太くなるまで、長い時間を共にする樹木です。「生命の樹」と呼ばれるだけあって、育てる人にも長い物語をくれます。あなたのコレクションに、もう一本——“生命の樹”を加えてみませんか。
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