実生の話をしていると、だいたい一度は出てくる質問があります。
「この種、好光性ですか?嫌光性ですか?」(私も聞いちゃうことがありますが汗)
聞きたくなる気持ちはすごく分かります。
でも、これに対して「好光です」「嫌光です」と即答できる植物って、実はそんなに多くありません。
その答え方をした時点で、だいたい事故の芽が生まれます。
好光性・嫌光性というのは植物の“性格”というより、
自生環境が作った一時的な振る舞いであることが多いからです。
同じ種でも、
- どんな地形で
- どんな地表材の上で
- どんな季節に
- どんな光の当たり方で
芽を出したかによって「光が必要だった理由」は全然違うんだと思います。
そこで役に立つのが、iNaturalistです。
iNaturalistとはスマホやWebで動植物の写真を共有し、AIや世界中のユーザーと種を特定できる無料の自然観察SNSのこと。
iNaturalistは「答え」をくれる場所ではありませんが、仮説を立てる材料が山ほど転がっています。
今回は、SeedStockで扱われている種の中から、
グラキリス
ディオスコレア
という、一見似ているけど、初期設計がズレやすい2種を例に、
「iNaturalistをどう見て、どう考え、どう播種設計に落とすか」を整理してみたいと思います。

植物好きのMeta√93です。主に球根や塊根など、ちょっとクセのある植物をのんびり育てています。実生や日々の変化を記録しながら、「こんな感じでいけた/これは難しかった」をやさしく共有。読んだ人が一歩ラクに育てられる記事を目指します。
実生のいちばん美味しいところの話
実生の面白さって、発芽した瞬間の「出た!」だけじゃないと思うんです。
むしろその前。
種を手にした時に、「これ、どこから来たんだろう」と考え始めるところから、もう実生は始まっているんです。
iNaturalistを開いて、自生地の写真を眺める。岩だらけの斜面だったり、落ち葉が溜まった林縁だったり、直射がガンガン当たっていそうで、実は影が多かったり。そこで芽を出した“あの瞬間”を想像する。
ロマンしかないですよね。
種子は土の下で水を吸って、タイミングを待って、「今だ」と判断して動き出す。
鉢の中でやっている播種は、その環境をほんの少し再現する作業です。
完璧に再現することはできませんが、考えて想像することはできるんです。
そうやって思いを馳せながら播けば実生はただの作業じゃなくなります。
ここから先は、そのロマンをどう現実の播種に落とすか。
少し現実的な話に入りたいと思います。

iNaturalistで参考にする重要な点
iNaturalistは、
- 写真の撮られ方はバラバラ
- 観察時期もバラバラ
- たまたま目立つ個体が多い
というノイズだらけの情報源です。
だからこそ、見るポイントを間違えないことが重要になります。
見るのは足元と影
iNaturalistを見るとどうしても花や全身写真に目が行きます。
でも、実生目線で重要なのは、そこじゃありません。
見るべきは、ほぼこの4点です。
- 個体の足元
- 地表材(砂、礫、岩、腐植)
- 影の入り方
- 周囲の植生密度
特に「影」。
直射なのか、半日陰なのか、何かに守られているのか。
芽はいちばん安全な場所で出る、という前提で見ると、写真の意味が一段深くなります。

観察地点は「答え」じゃなくて「下限」
iNaturalistには、観察地点の標高や位置情報が載っています。
ここでよくある誤解が、「この標高で育ってる=この標高が最適」という読み方ですが、実際は逆。
それは、「この条件でも生き残れた」という情報です。
実生設計では、
- これ以下は危なそう
- これ以上なら余裕がありそう
という 下限値の推定 に使うのが正解ではないかと思っています。
好光・嫌光を“仮説化”するための材料
種子サイズ
これはかなり重要です。
一般論として、
- 種子が小さいほど
→ 表層に留まりやすく、光をスイッチに使うことが多い - 種子が大きいほど
→ 覆土されても発芽可能だが、完全な暗黒は苦手な例が多い
という傾向があります。
これだけで「好光」「嫌光」は決まりませんが、
覆土の厚みを考える起点にはなります。
地表材
iNaturalistの写真で、まず確認したいポイントです。
- 岩や礫が多い
- 砂が露出している
- 腐植や落ち葉が溜まっている
地表材は、そのまま「播種床のヒント」です。
岩礫地なら、種は表層に留まりやすい。
腐植が厚い場所なら、
自然と“覆土された状態”になりますよね。
植生密度
裸地なのか、低草丈なのか、藪の中なのか。
これは光量だけでなく、湿度と風通しにも直結します。
実生初期で事故りやすいのは、光よりも「蒸れ」と「乾き」の方だったりします。
具体例で実生の条件を考える
グラキリスとディオスコレアをiNaturalistで見て確認して見ましょう
グラキリスの場合
iNaturalistでグラキリスを見ると、だいたい次のような写真が並びます。
- 開けた岩場
- 直射が当たっているように見える個体
- 低木の影に入り込んだ個体
一見すると、「好光性でしょ?」と言いたくなります。
でも、ここで一段考えてみましょう。
グラキリスの写真、どこを見る?
注目したいのは、
- 常に直射なのか
- 反射光が多いのか
- 午後には影になる位置か
多くの写真を見ると、
常時フル直射ではないというケースがかなり混じっていますよね。
岩場だけど、影ができる場所。反射光が効く場所なんかに自生しているようです。

https://www.inaturalist.org/observations/67184369
仮説としてのグラキリスの光要求
ここから立てられる仮説は、
- 完全好光ではない
- ただし、暗い環境も向かない
- 強い散光がちょうどいい
というものです。
グラキリスの初期設計に落とす
この仮説を、
播種の初期設計に落とすと、こうなります。
- 覆土:ほぼなし~極薄
- 種子が動かないよう、粒材で軽く固定
- 光:直射は避け、明るい散光
- 湿度:腰水OKだが、密閉しすぎない
ここで大事なのは、
「好光性だから直射」ではないという点です。
ディオスコレアの場合
次はディオスコレア。
こちらは逆に、「地下で育つ=嫌光性」と決め打ちされがちなタイプです。
でも、iNaturalistを見ると、少し印象が変わります。
ディオスコレアの写真が示すもの
多くの観察写真では、
- 落ち葉が溜まった場所
- 腐植が厚い地表
- 林縁や低草丈の下

https://www.inaturalist.org/observations/115745185
が目立ちます。
仮説としてのディオスコレア
ここから立てられる仮説は、
- 発芽初期は嫌光寄り
- 覆土された環境でスイッチが入る
- ただし、芽が出た後は光を求める
というもの。
「嫌光性植物」とラベルを貼ると、
この“切り替わり”が見えなくなります。
同じ塊根でも、初手は真逆になる理由
グラキリスとディオスコレア。
どちらも塊根植物ですが初期設計はかなり違います。
- グラキリス:浅播き・散光
- ディオスコレア:覆土あり・弱光スタート
この違いは、
好光/嫌光の2択でのラベルでは説明できません。
「写真は一瞬」だという前提を忘れない
ここで一度、
iNaturalistの写真そのものについて整理しておきたいと思います。
iNaturalistに載っている写真は、言うまでもなく「一瞬」を切り取ったものです。
でも私たちは、その一枚を見て、「直射だ」「日陰だ」「乾いてそう」と判断してしまいがちです。
ここに、実生設計がズレる原因が潜んでいます。
直射に見える=常に直射、ではない
グラキリスの写真を見ていると、「直射バンバンじゃん」と思うカットがたくさんあります。
でも、少し引いて考えてみると、
- 朝夕だけ直射が当たる場所
- 昼は岩や地形の影になる
- 雲量が多い地域
という可能性も普通にあります。
写真に写っている「光」は、最大値であることが多い。実生初期に再現すべきなのは、最大値ではなく、平均的に安全な状態です。
影がある写真は「ヒントの宝庫」
逆に、個体の周囲に影が写っている写真。
これは実生目線では、かなり重要です。
- 影を作っているものは何か
- 低木か、岩か、地形か
- 一日の中で影は動くのか
こうした情報は、「この植物は、どんな“逃げ場”を使っていたか」を考える材料になります。
芽が出る場所は、基本的に“楽な場所”。
この視点を持つだけで、覆土・光・湿度の考え方が一段現実的になります。
まとめ iNaturalistは設計図の下書き
iNaturalistは、
- 環境を読む
- 仮説を立てる
- 初期設計を決める
ための材料としては、非常に優秀です。
SeedStockで種を選び、iNaturalistで環境を読む。
この往復ができるようになると、実生は「運試し」から考えて組み立てる遊びに変わります。
次回の記事では、
この仮説をどう播種作業に落とすか。
覆土、光、湿度をどう調整するか。
それを後編で、もう一段具体的に整理していきたいと思います。

