「Hardy to USDA Zone 9」のような表記があるのを見たことはありませんか?
「Zoneって何?」「日本のどこなら育つの?」
そんな疑問を解消するために、世界共通の植物の「寒さの物差し」であるUSDAゾーン(ハーディネスゾーン)について、日本の気候に合わせた読み解き方を徹底解説します。
1. USDAゾーン(Hardiness Zone)とは?
「その場所の冬の寒さ(年間最低気温)だけ」を基準に、地域をランク分けした地図のことです。
もともとは米国農務省(USDA)が作成したものですが、現在では世界中の植物取引における「耐寒性のグローバルスタンダード」として使われています。
なぜ世界共通で使えるの?
気温という物理現象に基づいているからです。「マイナス10℃」という寒さは、アメリカでも日本でも植物に与えるダメージは同じ。そのため、国が違っても「Zone」が同じなら、越冬できる可能性が高いと判断できるのです。
2. ゾーンの数字と記号の読み方
ゾーンは数字(1〜13)と、さらに細分化したアルファベット(a/b)で表されます。
- 数字(例:Zone 8, 9): 小さいほど寒く、大きいほど暖かい。
- アルファベット(a/b): そのゾーンの前半(寒い側)か後半(暖かい側)か。
- a = 寒い方(lower)
- b = 暖かい方(higher)
温度とゾーンの早見表
アガベ、塊根植物、南半球プランツなどを扱う上で重要となる Zone 7 〜 Zone 11 の範囲をまとめました。
| Zone | 区分 | 最低気温の目安 | 植物への影響 |
|---|---|---|---|
| Zone 7 | 寒冷 | -17.8℃ 〜 -12.2℃ | 耐寒性の強い落葉樹や宿根草の世界。 |
| Zone 8 | 冷涼 | -12.2℃ 〜 -6.7℃ | 【地植えの壁】 Zone 8b(-9.4℃以上)なら、強いアガベ等は越冬可。 |
| Zone 9 | 温暖 | -6.7℃ 〜 -1.1℃ | 【日本の標準】 霜は降りるが、多くのアガベ・ユッカ・柑橘が育つ。 |
| Zone 10 | 無霜 | -1.1℃ 〜 +4.4℃ | 【霜の境界線】 熱帯植物の屋外越冬の限界ライン。 |
| Zone 11 | 熱帯 | +4.4℃ 以上 | 低温障害に注意が必要な熱帯エリア。 |
3. 【保存版】都道府県別・日本のUSDAゾーン目安
日本は南北に長く、山地も多いため一概には言えませんが、主要都市の気象データに基づいた目安です。
「自分の住んでいる場所が、世界基準でどのレベルなのか」を知る参考にしてください。
| Zone | 最低気温 | 該当する主な地域(目安) |
|---|---|---|
| Zone 4-6 | -30℃ 〜 -18℃ | 北海道全域、東北・長野の高地 ※多くの輸入多肉植物にとって屋外越冬は不可能です。 |
| Zone 7 | -18℃ 〜 -12℃ | 東北地方(盛岡、青森など)、長野県(松本など)、北関東・中部の山間部 |
| Zone 8 | -12℃ 〜 -7℃ | 北関東(宇都宮、前橋)、南東北(仙台)、京都盆地、内陸部の都市(岐阜、奈良など) ※「Zone 9」表記の植物は枯れるリスクが高いエリアです。 |
| Zone 9a | -7℃ 〜 -4℃ | 東京23区、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏中心部 ※ヒートアイランド現象により比較的暖かいですが、強い寒波の際は注意。 |
| Zone 9b | -4℃ 〜 -1℃ | 千葉・神奈川・静岡の沿岸部、四国・九州の平野部 ※柑橘類やオリーブが路地でよく育つ地域です。 |
| Zone 10 | -1℃ 〜 +4℃ | 南九州(鹿児島沿岸)、四国南端(高知沿岸)、伊豆諸島、沖縄本島 |
| Zone 11~ | +4℃以上 | 沖縄(石垣島、宮古島などの先島諸島)、小笠原諸島 |
⚠️注意:標高と地形による変化
同じ県内でも、標高が100m上がるごとに気温は約0.6℃下がります。
また、盆地(多治見、京都など)は放射冷却により、地図上の区分よりも「1段階寒い(Zone 9a → 8b)」冷え込みになることが多いため、厳しめの判定をおすすめします。

4. 日本の「落とし穴」:ゾーンだけで判断してはいけない理由
「Zone 9対応だから日本でも大丈夫!」と思っても、枯れてしまうことがあります。それは、USDAゾーンが「冬の寒さ」しか見ていないからです。
日本の気候特有の「3つの罠」に注意してください。
① 夏の高温多湿(蒸れ)
海外(特に北米西海岸や地中海)のZone 9は「夏が乾燥」しています。一方、日本のZone 9は「亜熱帯のような湿気」があります。
耐寒性はクリアしていても、夏の蒸れで根腐れして枯れるケースが非常に多いです。
② 雪と乾いた風
雪は天然の断熱材です。雪の下(0℃付近で安定)なら越冬できる植物も、関東地方のような「雪は降らないが、乾いた冷たい強風(空っ風)が吹く」場所では、葉の水分を奪われて枯れる(ドライアウト)ことがあります。
③ 放射冷却(盆地特有の冷え込み)
前述の通り、昼間は暖かくても夜間の放射冷却で急激に冷え込む地域では、天気予報の最低気温以上に植物体感温度が下がります。
5. 実践編:植物を購入・栽培する際の判断基準
種子や苗を購入する際、USDA Zoneをどう活用すればよいでしょうか?
- Zone 8表記の植物
- 関東以西の平野部なら、基本的に「地植えOK」の可能性が高いです。
- ただし、極端な寒波(-10℃級)が予報された時だけは保護が必要です。
- Zone 9表記の植物
- ここが「ボーダーライン」です。
- 南向きの軒下など、霜が当たらない場所なら屋外越冬可能です。
- 不安な場合や、寒波が来る夜は玄関先に取り込むのが無難です。
- Zone 10表記の植物
- 日本では基本的に「冬は室内管理」が必須です。
- 0℃を一瞬でも下回ると、細胞が壊死して溶けるリスクが高いです。
まとめ
USDAゾーンは、植物の「命の最低ライン」を知るための強力なツールです。
- 自分の地域のゾーンを知る(上の表をチェック!)
- 植物の耐寒ゾーンを知る(例:アガベ チタノタはZone 9〜10)
- 日本の「夏の蒸れ」を考慮する
この3ステップを踏めば、植物を枯らすリスクを大幅に減らすことができます。「耐寒性」を正しく理解して、より豊かなボタニカルライフを楽しみましょう!

❄️ USDA Zone別 おすすめ品種ピックアップ ❄️
記事で紹介したゾーンを目安に、あなたの環境に合う植物を選んでみましょう。
※耐寒性は個体差や株のサイズ(大株ほど強い)によっても異なります。
Zone 7-8 最強の耐寒性クラス
目安:-10℃以下でも生存
関東以西なら地植え(ドライガーデン)の主役になれる強健種たち。雪が積もっても耐える種類が多いです。
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🌵 アガベ・オバティフォリア (A. ovatifolia)
「鯨の舌」とも呼ばれる大型種。雨や湿気にも比較的強く、日本のドライガーデン最強候補。 -
🌵 アガベ・パリー (A. parryi)
吉祥天などの和名で有名。寒さに当たると美しく締まります。 -
🌴 ユッカ・ロストラータ (Y. rostrata)
庭のシンボルツリーに最適。寒さにも暑さにも非常に強い優等生。
Zone 9 人気No.1 標準クラス
目安:-5℃程度まで
多くの人気アガベがここに含まれます。南関東の軒下なら越冬可能ですが、寒波の日は要注意。
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🦁 アガベ・チタノタ (A. titanota / oteroi)
大人気種。0℃までは耐えますが、-5℃付近で葉が傷むリスクあり。霜は厳禁。 -
🌵 アガベ・ユタエンシス (A. utahensis)
本来はZone 7級の耐寒性がありますが、「日本の雨」に弱いため、雨除けのあるZone 9環境での管理推奨。
Zone 10-11 冬は室内へ!熱帯クラス
目安:凍結厳禁(理想は10℃以上)
マダガスカル系の塊根植物などはここ。日本の冬外気はNGです。
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🥔 パキポディウム・グラキリス (P. gracilius)
塊根の王様。寒さに当たると塊根部が凹んだり腐ったりします。冬は一番暖かい部屋へ。 -
🌳 オペルクリカリア・パキプス (O. pachypus)
寒さに弱いです。落葉休眠中も、なるべく温かい場所(10℃〜)で管理を。

