カフェア・ロブスタ「トゥアナン」について

1. はじめに

コーヒーは世界中で広く消費されている飲料であり、その中でも特にアラビカ種とロブスタ種が主要な栽培種として知られています。世界のコーヒー市場において、カフェア・ロブスタ（ Caffea robusta ）は重要な位置を占めており、その生産量は全コーヒー生産量の約40〜45%に達します。ロブスタ種は、その力強い風味と高いカフェイン含有量によって特徴づけられ、特にエスプレッソやインスタントコーヒーの原料として広く利用されています。

本報告書では、ベトナムで栽培されているカフェア・ロブスタの特定の栽培品種である「トゥアナン（'thuanan'）」に焦点を当て、その起源、植物学的特徴、栽培方法、官能特性、コーヒー豆の形態、用途、学術研究、他のロブスタ種との比較、そして病害虫のリスクと対策について詳細に調査し、報告します。トゥアナン種は、「giống cà phê dây Thuận An」とも呼ばれ、高収量品種として知られています。この品種は、ベトナムの主要なロブスタ栽培地域であるダクノン省のダクミル地区トゥアナン地域で、チャン・ティ・キム・ミー氏とグエン・ヴァン・クオン氏によって選抜されました。

2. 起源と植物学的特徴

2.1. 地理的起源

カフェア・ロブスタ「トゥアナン」は、ベトナムの中央高地地方に位置するダクノン省のダクミル地区トゥアナン地域が原産地です。中央高地はベトナムにおけるロブスタコーヒーの主要な栽培地域であり、その地理的特性と環境条件がこの栽培品種の発展に影響を与えたと考えられます。この地域は、ロブスタコーヒーの栽培に適した温暖な気候と肥沃な土壌を有しており、トゥアナン種がその地で選抜されたことは、その地域への適応性を示唆しています。

2.2. 植物学的特徴

トゥアナン種は、「cà phê dây Thuận An」という別名が示すように、「dây」（枝またはつる）のような成長習性を持つコーヒーの品種です。果実をつけた枝が長く垂れ下がるのが特徴で、「cà phê dây Mỹ Cường」とも呼ばれます。この品種は、生育が旺盛で成長が早く、乾燥に強く、病害虫に対する抵抗性も比較的高いとされています。

樹高は中程度で、果実は樹冠の内側に「隠れる」傾向があり、これにより果実の落下やひび割れが軽減される可能性があります。葉は中くらいの大きさで、披針形をしており、左右対称で、縁は波状になっています。成熟すると濃い緑色で光沢があります。

果実は大きく、左右対称で丸い形をしており、わずかに「dưa」（メロンのような）縞模様があり、先端には小さな「núm bò」（牛の乳首）のような突起があります。果房は非常に密集しており、節間が短いのが特徴です。

豆は大きく、密度が高く、R1グレード（スクリーンサイズ16以上）の豆の割合が97〜100%と非常に高いです。生豆から焙煎豆への変換率は約4.1：1です。接ぎ木されたコーヒーの場合、生産段階は3年目から始まり、平均収量は1ヘクタールあたり6〜8トンの生豆です。推奨される植栽間隔は、2.5m x 2.5mまたは2.8m x 2.8mです。収穫時期は、グレゴリオ暦の12月と1月です。

3. 栽培要件

3.1. 最適な気候条件

トゥアナン種は、ベトナムの中央高地および国内の他のロブスタ栽培地域での栽培に適しています。ロブスタ種全般としては、温暖な気候（24〜30℃）と低い標高（海抜から1000m、特にベトナム中央高地では0〜800m）を好みます。また、年間降水量2000〜3000mmの豊富な降雨と高い湿度も必要とされます。トゥアナン種が中央高地に適していることは、この品種がベトナムのロブスタ栽培に適した典型的な気候条件を好むことを示しています。

3.2. 理想的な土壌タイプと準備方法

トゥアナン種の具体的な土壌要件は詳細には記述されていませんが、中央高地の肥沃な火山性土壌はロブスタコーヒーの栽培に理想的であるとされています。近隣のダクダム地域では、自家製の有機微生物肥料の使用が報告されており、トゥアナン種の栽培においても、肥沃で水はけの良い火山性土壌が適している可能性が高いです。有機肥料の使用は、土壌の健康を維持し、コーヒーの品質に貢献する可能性があります。

3.3. 推奨される植栽および繁殖技術

トゥアナン種の場合、推奨される植栽間隔は2.5m x 2.5mまたは2.8m x 2.8mです。接ぎ木は繁殖方法として言及されており、接ぎ木された植物は3年目から生産を開始します。エークマット作物栽培センター（Trung Tâm Giống Cây Trồng Viện Eakmat）が接ぎ木されたトゥアナン種の苗（小鉢と大鉢）を販売していることは、この繁殖方法が広く利用されていることを示唆しています。

3.4. 水および栄養管理戦略

ロブスタ種は年間2000〜3000mmの降雨を必要とするため、トゥアナン種の栽培においても、十分な水分供給が重要です。中央高地の典型的な降雨パターンは、トゥアナン種の栽培に適していると考えられますが、乾季には灌漑による補給が必要となる場合があります。ベトナムの晩生ロブスタクローンでは、乾季の最初の灌漑時期を遅らせることで灌漑回数を減らせる可能性が示唆されていますが、トゥアナン種が晩生であるかどうかは明確ではありません。近隣地域での有機肥料の使用は、トゥアナン種の栽培においても、土壌の健康と栄養レベルを維持するための有益な戦略となる可能性があります。

4. 官能特性

4.1. 味、香り、風味の詳細な分析

「GB Robusta đặc sản Fine Robusta Natural Daklak Ca Day」として記述されている、おそらくトゥアナン種から作られたコーヒーの官能特性に関する最も具体的な情報によると、このコーヒーはブラウンシュガー、フルーツワイン、カルダモンのような味わいを持ち、ハーブと柑橘系のノート、そして明るい酸味を伴います。

ロブスタ種全般としては、深みのある土のような味わいで、ナッツや木のようなニュアンスを伴い、アラビカ種よりも苦味が強く、ストレートな味わいが特徴とされています。ベトナムのロブスタ種は、一般的にアラビカ種よりも強く、ナッツのような、そして濃い味わいを持ち、チョコレート、ナッツ、土のような風味を持つとされています。さらに、土っぽさ、ナッツのような風味、チョコレートのヒント、スパイス、そしてフローラルなノートを持つ可能性も示唆されています。ベトナムのロブスタ種は、苦味が強く、香りは軽く、えぐみがあり、色は茶色で、後味は甘いとされ、アラビカ種よりも酸味が少ないとされています。また、リッチでタルトのような味わいを持ち、焙煎後に甘い香りがすることもあります。ベトナムコーヒーは、一般的に濃く、大胆で苦味のある風味と油っぽい質感が特徴で、土、ナッツ、チョコレートのようなノートを持つとされています。

トゥアナン種の官能特性は、一般的なロブスタ種のイメージとは異なり、より複雑で魅力的な風味を持つ可能性を示唆しています。特に、「明るい酸味」の存在は、ロブスタ種としては珍しい特徴です。

4.2. ボディ、酸味、全体的なカップ品質の考察

トゥアナン種には「明るい酸味」があると明記されています。一般的なロブスタ種は、ボディがしっかりしているとされていますが、酸味については、低いという記述もあれば、酸味があるという記述もあります。ベトナムの特定のロブスタクローンでは、風味が良く、ボディがしっかりしており、平均的な酸味で、全体的なカップ品質が良いと報告されています。伝統的なベトナムのロブスタ種（「Robusta sẻ」）は、ミディアムからヘビーなボディと低い酸味を持つとされ、新しい品種はより軽いボディとわずかに高い酸味を持つとされています。

トゥアナン種の「明るい酸味」は、一般的なロブスタ種の低い酸味という認識とは異なる、望ましい特性である可能性があります。しっかりとしたボディとこの酸味の組み合わせは、バランスの取れた風味豊かなカッププロファイルを示唆し、スペシャルティコーヒーの消費者にもアピールする可能性があります。

5. コーヒー豆の形態

5.1. サイズ、形状、色、その他の視覚的特徴の詳細な説明

トゥアナン種の豆は大きく、楕円形をしています。また、R1グレード（スクリーンサイズ16以上）の豆の割合が97〜100%と高いことも特徴です。一般的なロブスタ種の豆は、平らな形、楕円形、アラビカ種よりも丸く円形に近い形をしており、サイズは小さく、片面に溝があり、表面は滑らかで、底の部分がハート形に見えることが多く、熟すと緑がかった茶色をしています。新しいロブスタ品種は、伝統的な小さい「Robusta sẻ」（スクリーンサイズ15以下）と比較して、より大きいサイズ（サイズ16〜20）を持つことがあります。

トゥアナン種の豆が大きい楕円形であり、高いR1グレードを持つことは、この品種がベトナムの新しい、より大きな豆を持つロブスタ品種のカテゴリーに属する可能性を示唆しています。これは、改良された物理的特性と市場性を目指して育種または選抜された結果かもしれません。

5.2. 物理的属性に基づく豆の品質分析

トゥアナン種の97〜100%という高いR1グレード（スクリーンサイズ16以上）は、豆のサイズが大きく均一であることを示しており、高品質の証となります。スクリーンNo.16に残る豆の割合が高いことが、特定のロブスタクローンの印象的な特徴として挙げられています。豆のサイズと均一性は、コーヒー業界において重要な品質指標であり、加工、焙煎、そして最終的なカップ品質に影響を与えます。トゥアナン種のこの特徴は、ロースターや消費者にとって望ましいものであり、「ファインロブスタ」としての可能性を高めます。

6. 用途と潜在的な利用

6.1. トゥアナンコーヒー豆の伝統的および現代的な用途

トゥアナン種の原産地域にあるHTX（協同組合）は、ロブスタコーヒーをスペシャルティコーヒーにすることを目指しています。「ファインロブスタ」という用語が使われています。一般的なロブスタ種の用途としては、エスプレッソブレンド、インスタントコーヒー、および一般的なブレンドが挙げられます。ベトナムのロブスタ種は、伝統的なアイスコーヒー（cà phê sữa đá）にも使用されます。

トゥアナン種に関連する「ファインロブスタ」という表現と、スペシャルティコーヒーを目指すという意向は、この品種が従来の用途を超えた、より高品質な用途に向けられている可能性を示唆しています。ブレンドにも使用される可能性はありますが、シングルオリジンやプレミアムブレンドでの利用が期待されます。

6.2. エスプレッソ、ドリップ、ベトナムのフィンフィルターなど、さまざまな抽出方法への適合性

ベトナムのロブスタ種は、一般的にフィンフィルターで抽出されます。ロブスタ種はエスプレッソブレンドにも使用されます。トゥアナン種はベトナム原産であり、高品質な特性を持つ可能性を示唆しているため、伝統的なベトナムのフィンフィルター抽出、特に濃く苦いロブスタを好むベトナムの伝統的な飲み方であるコンデンスミルクを加えたコーヒーに適していると考えられます。また、「ファインロブスタ」としての可能性は、エスプレッソなど他の抽出方法でも良好な結果を生む可能性を示唆しています。

6.3. ブレンドおよびスペシャルティコーヒー市場における可能性

「ファインロブスタ」および「スペシャルティコーヒー」という用語は、トゥアナン種がスペシャルティコーヒー市場で潜在的な可能性を秘めていることを直接示しています。一般的なロブスタ種は、その強さやカフェイン含有量からブレンドに使用されます。ベトナム産のスペシャルティロブスタ豆への関心の高まりや、高品質なロブスタを販売する農家の増加、品質向上のための発酵などの加工技術の利用、そして味の改善を目指した新しい栽培品種の開発は、トゥアナン種を含む高品質なロブスタ種にとって好ましい市場動向を示しています。トゥアナン種は、その記述された官能特性と「ファインロブスタ」の指定から、シングルオリジンコーヒーとして、あるいはプレミアムブレンドの独特な風味を加える成分として、スペシャルティコーヒー市場で重要な役割を果たす可能性があります。

7. 学術研究と発見

7.1. トゥアナン種に特化した、または言及している既存の研究論文、報告書、および研究のレビュー

トゥアナン種はダクノン省の決定番号107/QĐ-SNNの下で正式に登録されたと記載されています。この品種はタイグエン農業林業科学技術研究所（Tay Nguyen Agricultural and Forestry Science and Technology Institute）の品種とは異なる起源を持つことが述べられています。「cà phê dây Thuận An」はエークマット作物栽培センターの製品カタログに掲載されていることが示されています。

これらの情報は、トゥアナン種がベトナムの農業当局によって正式に認識され、評価されていることを示唆しています。主要な研究機関の育種プログラムとは異なる起源を持つことは、この品種が農家による選抜と開発の成果である可能性を示唆しています。エークマット作物栽培センターのカタログに掲載されていることは、この品種が研究関連機関を通じて入手可能であることを示しています。

7.2. 収量、品質、または回復力に関連する科学的発見の分析

トゥアナン種の平均収量は1ヘクタールあたり6〜8トンと高く、乾燥に強く、一部の病害虫に対する抵抗性があり、R1グレードの豆の割合が高いことが強調されています。高収量品種として言及されています。これらの発見は、トゥアナン種が望ましい農業特性を持っていることを示しており、その認識と普及に貢献していると考えられます。

8. 他のロブスタ種との比較分析

8.1. ベトナムおよび世界で栽培されている他の主要なロブスタ栽培品種（例：TR4、TR9）との詳細な比較

トゥアナン種はエークマット研究所（TR4、TR9、TRS1）やラムドン省の品種（緑色矮性種、ティエンチュン種）よりも後に登場しましたが、収量や成長において劣っていないと述べられています。タイグエン農業林業科学技術研究所の品種とは異なることが指摘されています。ベトナムで栽培されている他のロブスタ品種がリストアップされています。TR4、TR9、TR11、TR14、TR15の収量と豆の品質に関する詳細が提供されています。「Robusta sẻ」と新しい品種（数値指定されたものを含む）が豆のサイズ、ボディ、風味の点で比較されています。インドネシアのBP 534、ブラジルのBRSシリーズ、メキシコのINIFAP 00-28などの世界の品種が挙げられており、ダクラク省のTRシリーズも言及されています。

これらの情報から、トゥアナン種は、農家によって選抜された品種でありながら、主要な研究機関によって開発されたTR4やTR9などの確立されたベトナムのロブスタ品種と収量や成長の点で競合できると考えられます。

8.2. 特徴、収量、官能特性、および病害抵抗性の主な違いの強調

トゥアナン種の最も顕著な特徴の1つは、「dây」（枝/つる）のような成長習性です。これは、他の一般的なベトナムのロブスタ品種には通常見られない特徴であり、栽培や収穫方法に影響を与える可能性があります。官能特性については、記述されているブラウンシュガー、フルーツワイン、カルダモン、ハーブ、柑橘系のノート、そして明るい酸味は、一般的なロブスタ種の土っぽく苦いという風味とは異なり、より複雑で高品質な可能性を示唆しています。トゥアナン種は、乾燥に強く、一部の病害虫に対する抵抗性も持っていると報告されています。豆のサイズが大きく、R1グレードが高いことも特徴です。

8.3. 表1：カフェア・ロブスタ「トゥアナン」と他の選択されたロブスタ種との比較

9. 病害虫の感受性と管理

9.1. ベトナムでロブスタコーヒーに影響を与える一般的な病害虫の特定

ロブスタ種はアラビカ種よりも一般的に抵抗力が高いものの、コーヒーさび病、コーヒー萎凋病、赤色水疱病、キクイムシ、コーヒーベリー病、コーヒーベリーボーラー、およびネマトーダなどの病害虫に感受性を持つ可能性があることを示唆しています。ベトナムにおけるこれらの一般的な脅威を理解することは、トゥアナン種を含むすべてのロブスタ栽培品種の効果的な管理戦略を開発するために不可欠です。

9.2. 入手可能な情報に基づく、トゥアナン種のこれらの脅威に対する感受性または抵抗性の評価

トゥアナン種が「一部の種類の病害虫」に対して抵抗性があると明記されていますが、具体的にどの病害虫に対して抵抗性があるかは示されていません。その特定の文書ではカフェア・ロブスタ「トゥアナン」の病害虫抵抗性に関する情報が入手できないとされています。トゥアナン種が何らかの抵抗性を持っていることは好ましい特性ですが、その範囲を評価するためにはより具体的な情報が必要です。

9.3. トゥアナン栽培における総合的な病害虫管理のための推奨戦略

トゥアナン種の栽培においては、健全な苗の選択（特に接ぎ木されているため）、良好な農場衛生の維持、および病害虫の兆候がないかどうかの定期的な監視など、予防的な対策を重視した総合的な病害虫管理アプローチを実施する必要があります。ロブスタ種は一般的にアラビカ種よりも化学的介入を必要としませんが、地域の病害虫の発生状況や専門家の推奨に基づいて、必要に応じて的を絞った適切な処置を行う準備をしておく必要があります。

10. 結論と将来の展望

カフェア・ロブスタ「トゥアナン」は、ベトナムのダクノン省で選抜された高収量のロブスタ栽培品種であり、良好な乾燥抵抗性と一部の病害虫に対する抵抗性、そして大きな豆を持つことが特徴です。官能特性に関する情報は限られていますが、「ファインロブスタ」として記述されていることから、一般的なロブスタ種よりも複雑で高品質な風味を持つ可能性が示唆されています。

トゥアナン種の潜在的な可能性は、その高い収量、良好な抵抗性、大きな豆のサイズ、そしてスペシャルティコーヒー市場に向けた有望な官能特性にあります。課題としては、確立された品種と比較して広く知られていないこと、そしてスペシャルティセグメントに参入するための品質管理とマーケティングの必要性が挙げられます。

今後の研究開発では、異なる加工方法や焙煎度合いによる詳細な官能評価、具体的な病害虫抵抗性の特定、他のロブスタ品種との比較研究、そしてそのユニークな特性と系統を理解するための遺伝子分析に焦点を当てるべきです。また、その官能特性を高めるための最適な収穫後処理技術の調査も有益でしょう。